インドの影 (5) 階段

Posted on 27/05/2010

カルナータカ州西海岸のちいさな村カンバダコーネ。
ぼくがインドで一番美しいと思う漁村だ。
2006年にとあるNGOとのからみで訪れた。
村の学校の創立者で、村の大地主のお宅に一週間お世話になった。

木と漆喰と瓦でできた築300年の民家は、
日本の田舎と同じ匂いがした。
サールー(豆のスープ)と、
パリヤ(野菜の炒め煮)とご飯という
シンプルな料理が毎日続いたけど、
飽きることがなかった。
朝は、霧のたちこめるあぜ道を散歩。
昼はいつものごはんを食べて、
涼しい玄関の長椅子で昼寝。
夕、ゆっくりと暮れていく浜辺をそぞろあるき。
そんな風に過ごしていた。

村での生活のなかで、たくさん写真をとった。
再訪したとき、それを写真集にしてプレゼントした。
そのとき、みなが一番釘付けになっていたのが、この写真だ。
屋敷主人の甥っ子が言った。
「この家が建って何百年もたつが、
この階段にカメラを向けたのは君だけだ。
こんなに美しい光景がわが家にあったなんて、
ほんとうに誇らしいよ」

昨年、またこの家に行った。
屋敷の主人は代がわりをしていた。
銀行のマネージャーで海外出張の多い若主人は、
古い建物にあまり興味がなかったのだろう。
趣ある民家部分はほとんど壊され、
清潔で現代的な家に改築されていた。
階段は無惨にも取り外されて、
無骨なコンクリートで塗り固められていた。
家は人気がなく、しんと静まり返っていた。

この写真を見るたびに、ぼくは複雑な気持ちになる。

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