津の「Kalas」に会う

Posted on 26/04/2012

◎去年の秋、南陀楼綾繁さんのUstrem番組で、津の地域誌「Kalas」が紹介されていた。一瞬ありがちなオシャレ地域誌にも見えたが、名前が印象的ですぐ検索。するとバックナンバーの特集タイトルがぼくのツボにはまるものばかりだった。「探している手」「活字の遺伝子」「これからのダイヤル」「仕事の値段」……気になる号をまとめて注文した。

数日後、届いた冊子をみてたまげた。ヴィジュアルもデザインもいいが、なにより記事の内容が面白い。ブームに乗じて、地方都市の編プロがソツなく作った地 域誌とはわけが違う。おいしい店や観光名所をただ羅列したような記事はどこにもなく、編集者の半径数百メートルで起きていること、その町で働いている人び とのことを丁寧に書いている。このややこしい時代に、津という町で働き、楽しみ、モヤモヤする。
津のことを書いているのに、自分のなかにいくつも響くものがある。ミニマルなのに普遍的。地域誌のお手本のような冊子だと思った。

し びれたぼくは、しばらく打ち合わせの時、いつも鞄に「Kalas」を忍ばせ、いろいろな編集者たちに「こんな冊子があるんだよー」と見せびらかしていた。 多くの編集者はこの丁寧なつくりの冊子が、1人の編集者で作られていることに驚き、最後はきまって「私たちもこんな本をつくりたいよね」と盛り上がるの だった。

4月某日。スウェーデンに暮らす妻の友人が一時帰国で四日市に来るという。四日市といえば三重、三重といえば津。津といえば 「Kalas」だ。津までは京都から車で1時間半くらいの距離。案外近い。ならば、四日市ではなく津でおちあおう、ということになり、はじめての津へ行っ てきた。

◎低気圧の影響で、津についた頃はどんよりした天気になっていた。目指すは四天王会館。由緒の古い四天王寺の隣にポツリと建ったレトロビル。一階にカフェ・レストラン、二階に輸入文具と工作のお店、三階に「Kalas Books」と「津あけぼのホール」が入っている。

Kalasのひとり編集者・西屋さんとは面識がなく、メールでのやりとりもつい数日前にしたばかり。おそるおそるドアを入ると、にこにこした西屋さん夫妻が出迎えてくれた。
大きく開かれた窓から木々が見えて、こじんまりしているけど気持ちのいい仕事場。お土産にもってきたぼくの装丁本を肴に自己紹介する。

西屋さんは生まれも育ちも津。地方新聞の記者を経たのち、地域雑誌の編集部で働くようになった。だが物足りなさを感じ、個人的に津のフリーペーパーをはじめる。それが「Kalas」の創刊だった。
「いわゆる地域雑誌っぽい記事じゃなくて、もっと個人的な興味で雑誌を作ってみたかった」
とりあげる場所は地元の神社から駄菓子屋まで。職人のおっちゃんに話を聞き、樹木医と街路樹を見て歩く……短い誌面ながらどの記事も西屋さんの視点が光っている。フリーペーパーはいずれ有料誌となり、ページを増やし、いまやA5判64Pカラーの立派な冊子になった。

以前、札幌で中島岳志さんや、森まゆみさんらと「地域誌を作ろう」というトークイベントに呼ばれたことがある。そのとき、お客さんのひとりからこんな質問があった。
「東京とか、谷中とか歴史の深い場所ならば取り上げるネタにも困らないだろうけど、札幌の西区みたいな歴史もなーんもないようなところで、地域誌なんて作れるのでしょうか」
歴史や学問、大仰なものではなく、(そこで暮らす人たちにとって)なんも特別ではないものをいかに記事にまとめるか。これはきっと地域誌作りで最初にぶつかる問題だとおもう。
西屋さんにこの話をしたら、かれはうんうんと頷いてから、力強く言った。
「作れます。そこに人が暮らしているならば、どんな町でも地域誌は作れるんです。ぼくは無人島でも地域誌は作れると思っています」
横で聞いていた奥さんが小声で「えっ、無人島じゃ無理なんじゃない…」とつっこむが、「いや、無人島でも作れる!」と自信満々に断言する西屋さん。
この人はすごい人だ。こんな言葉がこれから地域で何かをはじめようとしている人には必要なんだと思う。

そうかー、ぼくが無人島に暮らしていたら、どんな雑誌を作るかなー、と想像していたら、なんか楽しくなってしまった。人間以外の島の住人たちとやりとりし、島の地図をつくったり、どこにどんな植物が生えていて、どの浜でどんな魚が捕れるのか…。
無人島でやることも、町中でやろうとすることも、実はそんなに変わらない。そんな気持ちで動き、冊子作りを楽しめたらなんてすてきだろう。
近頃よく聞いているナナオサカキさんの詩を思い出した。

半径 1mの円があれば
人は 座り 祈り 歌うよ
半径 10mの小屋があれば
雨のどか 夢まどか
半径 100mの平地があれば
人は 稲を植え 山羊を飼うよ
(ナナオサカキ「ラブレター」より)

話はあちこち脱線し、気がつけばスウェーデンから来た友だちも巻き込んで、偕楽公園でお花見し、みんなで団子を食べていた。この気安さ、なんかインドみたいだ。

Be the first to leave a comment

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です