カルナータカ州西海岸のちいさな村カンバダコーネ。
ぼくがインドで一番美しいと思う漁村だ。
2006年にとあるNGOとのからみで訪れた。
村の学校の創立者で、村の大地主のお宅に一週間お世話になった。
木と漆喰と瓦でできた築300年の民家は、
日本の田舎と同じ匂いがした。
サールー(豆のスープ)と、
パリヤ(野菜の炒め煮)とご飯という
シンプルな料理が毎日続いたけど、
飽きることがなかった。
朝は、霧のたちこめるあぜ道を散歩。
昼はいつものごはんを食べて、
涼しい玄関の長椅子で昼寝。
夕、ゆっくりと暮れていく浜辺をそぞろあるき。
そんな風に過ごしていた。
村での生活のなかで、たくさん写真をとった。
再訪したとき、それを写真集にしてプレゼントした。
そのとき、みなが一番釘付けになっていたのが、この写真だ。
屋敷主人の甥っ子が言った。
「この家が建って何百年もたつが、
この階段にカメラを向けたのは君だけだ。
こんなに美しい光景がわが家にあったなんて、
ほんとうに誇らしいよ」
昨年、またこの家に行った。
屋敷の主人は代がわりをしていた。
銀行のマネージャーで海外出張の多い若主人は、
古い建物にあまり興味がなかったのだろう。
趣ある民家部分はほとんど壊され、
清潔で現代的な家に改築されていた。
階段は無惨にも取り外されて、
無骨なコンクリートで塗り固められていた。
家は人気がなく、しんと静まり返っていた。
この写真を見るたびに、ぼくは複雑な気持ちになる。



