谷川俊太郎

たにかわ・しゅんたろう
(詩人)
★★★★★

この本には学校にはない、インドの匂いがある。

生きる知恵を学べる楽しい父娘合作の本。

真と善はしばしば争いを生むが、美は敵を作らない。

一青窈

ひとと・よう
(ミュージシャン)
★★★★★

陸上競技場の400mトラックをぐるぐる回る娘を、インコースで追いかけたら「ママは何番線走ってるの?」と聞かれた。外周を走っている彼女に「そちらは?」と尋ねると「あのね、8番めだよ!!」と教えてくれた。

コースではなく白線の上を器用にスキップしていた彼女は友だちみんなが走り終えても、マイペースにのらくらと歩き続けていた。

たもんさんはそんなふうに、規定のルールに囚われず自分のゆくべき道をさくさく進んでゆく。

そしてこの地球上に鳴っているしあわせな音に耳をすまし、腰を下ろし、命を噛み締める。

「ねぇ、これ素敵じゃない?!」

とその音を共有してくれるこの本は私をすっかり優しい気持ちにしてくれました。

美しいってあなたが感じるこころそのものだ。

伊藤亜紗

いとう・あさ
(美学者)
★★★★★

ふとした瞬間に、人は理由もなく魅入られる。

何かを美しいと思う気持ちは恋にも似ていて、「これこそ自分の求めていたものだ」と確信する瞬間はこの上なく甘美だ。

しかし、移りゆく時間のなかで、世界は私から奪いもする。美は冷たく、残酷だ。

その波間を小舟でゆく旅人のような多聞さんとつたちゃん。二人の言葉は、語っているのにまるで聞いているかのように澄んでいる。

松村圭一郎

まつむら・けいいちろう
(文化人類学者)
★★★★★

万物がめぐり、出逢いと別れをくり返す。

そんな偶然でありながら、必然でもある世界に住まうこと。

矢萩多聞さんと娘つたさんのやわらかな眼差しは、この世界との向き合い方の内側に美しさが宿るのだと気づかせてくれる。

細川貂々

ほそかわ・てんてん
(漫画家)
★★★★★

私は昔の目薬ビンをとても美しいと感じているけれど、同じように感じてくれる人はほとんどいない。

川、壁、石、文字、ことば…そういうモノも私は美しいなあと感じることが多い。

多聞さんとつたちゃんもそういうモノに美しさを感じてくれてるのでホッとした。

美しいって感じるコトやモノは、人や場所、時間によってそれぞれ違う。どんなときにどんなことを美しいと感じるか、もう一度考えてみようかなあと思える本です。

中島岳志

なかじま・たけし
(政治思想学者)
★★★★★

大切なのは、よく見ること。

すると、一片の花びらに、泥まみれのコケに、いつもの町の風景に、奇跡のような「いのち」が現れている。

それが、そのまま美しい。わたしたちの毎日は、そんな世界の一部だ。

ささやかで何気ないものを抱きしめると、そこに自ずと美が立ち現れる。

多聞さんとつたちゃんは、そんなことをそっと教えてくれる。

森まゆみ

もり・まゆみ
(作家)
★★★★★

モリしゃん、と飛びついてきた3歳のつたちゃん。ぐずったり、笑ったり、マントラ唱えたり、箪笥の上から飛び降りたり。つたちゃんの演じてくれた寅さんの紙芝居も、落語で一席も私にとって美しい記憶。つたちゃんは孫のような気がする。

多聞さんは息子のような年なのに、なぜかお兄さんみたいな気がする。多聞さんが9歳で出会ったネパールやインド、心ふるえる父の思い出が、つたちゃんの体験とスパークして、私の子ども時代の記憶を呼び起こす。

「灰のなかにのこった悲しみは、よいわるいの物語を超えて、美となり、だれかの救いとなった」

近頃読んだ一番美しい文章です。

佐々木美佳

ささき・みか
(映像作家・文筆家)
★★★★★

多聞さんのお母さんの話に、わたしの母の面影を見た。

つたちゃんの文章は子どものころのわたしを思い出させた。

読む人それぞれの人生が心に浮かぶ、鏡のような文章。涙が溢れる。

愛おしい人たちとともに、人間が憧れ続ける美しさとともに、わたしも生きていきたい。

田中典晶

たなか・のりあき
(本屋UNLEARN)
★★★★★

まるで人類の歴史の断面ををズームで覗き込んだかのような気がする本だ。

「学校」のない時代から人類は、歌い、祈り、絵を描き、文を書き、そしていたずらをした。また火に慄きながら、それでこねた土や草を焼き、料理を作り、そして死者を焼いた。インドであれ極東の島国であれ、連綿と続いてきたそんな営みが、驚くべきことにこの多聞さんの本にはすべて詰まっている。このIT時代に!

そして「美しさ」とはそのような暮らしの中にこそ宿るものであることを、著者は心を尽くして語ろうとする。

最後のところ、人類史の最も新しい時間を生きる娘・つたさんが書いたおばあさんに宛てた手紙は「悲しんでも、悲しみきれない」命の歴史そのものの力が宿った言葉として胸に響く。

加藤直徳

かとう・なおのり
(編集者、NEUTRAL COLORS)
★★★★★

二十歳を少し過ぎた頃だろうか。初めて行った北インドで身も心もボロボロになり、カレーも嫌で嫌でフルーツばかり食べていた。数十年経って、日本でもスパイスカレーを食べるようになった今、そっと思い出すのは、チャーイの素焼きの陶器を投げて割って土に返したこと。高級卵の黄身のような色をした夕焼けの太陽。リキシャーの運転手の細くて牛蒡のような脚。開け放たれた列車の窓ではためくサリー。

いつだって、どこを読んでも、多聞さんの言葉は丸くてやさしい。表現がふくよかで、心にそっと種をまき、いつか小さな花を咲させるような言葉だ。

読んでいるうちに自分だけのインドの美が蘇った。その美しさは、目をそらしたくなるくらい軽薄で薄汚いものも内包している。すべての色が混ざり合ったようなマーブル模様のような。

そう、美しさってなんだろう?

読み進めているうちに、つたちゃんの言葉に立ち止まることが多くなる。目が離せなくなる。感情の揺れのままにネイキッドに放たれる言葉たちは、どんどん大人びてくる。

生まれてくる言葉を作為無しにそのまま載せることは意外に難しい。大人になると余計に難しい。だからこそ、つたちゃんの言葉をそのまま載せたこの本は正しい。そして時折、多聞さんの言葉なんじゃないかと錯覚するほど、パンチラインが飛び出すから不思議だ。そうだ、彼女も本の中でぐんぐんと成長しているんだ。

お母さんから受け取ったバトンが、多聞さん自身を透過して、つたちゃんに手渡されていくのを確かに感じる。混じり合って大きな川になるように。それは、なんてすばらしいことだろう。なんて美しいことだろう。

ミロコマチコ

(絵本作家)
★★★★★

楽しいことや安心だけではなく、苛立ちや苦しみや悲しみもいびつさも美しい。

多聞さんの祖父母や両親から、多聞さんからつたさんへ、つたさんから多聞さんへ、美しさはどんどん伝染して、ぐるんぐるん渦巻いてる。じわじわと私にも巻きついて、心が喜び出した!

“感じる”ことそのものが、美しいことだよって!

若松英輔

(批評家)
★★★★★

稀有な本に出会った。

ここには素朴だが、強靭な美があり、愛があり、真実がある。何かを美しくするのは美である。しかし人は、美をそのままには経験できない。人や物、あるいは、時を通じてのみ経験し得る。

そして、真実の意味で美にふれたとき、その者の発する言葉は、詩になり、同時に哲学になる。そればかりか、この世界は愛するに足りるという讃歌になり、永遠を告げ知らせる告白にもなる。

そんな存在の秘義を伝える一冊だ。

川内有緖

(作家)
★★★★★

学校という窮屈な箱を飛び出して、全身の感覚で「美しいもの」を手のひらの上に集めていく多聞さんと娘のつたさん。

美しさは誰かが決めてくれるものではなく、自分自身の手足で発見していくものなのですね。そこにある小石も、歌も、炎も、落書きも。こちらが微笑めば、向こうも微笑んでくれるのかもしれません。

そして私たちひとりひとりは、神様が作った壮大なお芝居を演じながら、今日も歩き、働き、笑い、泣き、嘆き、愛し、抱きしめ、眠って、夢を見る。その日常を繰り返しながら、なにげない石を拾って、適当な歌を歌いながら、眺めの良さそうな山の方角に一歩を踏み出せばいいのかな。

そう思うと、ただ毎日を生きるのがもっともっと楽しみになりました。