ひょんなご縁で文学座の芝居のポスターをデザインしました。自分でも意外だったけど、演劇の印刷物をつくるのはこれがはじめての経験。俳優で演出家の今井朋彦さんから直々のご依頼でした。(彼は拙著『偶然の装丁家』を熟読して、多聞さんに頼みたい!と声をかけてくれました)
脚本は今年の岸田國士戯曲賞を受賞し、各方面から注目される松原俊太郎さん。松原さんは京都在住だし、岸田國士賞といえば白水社だし、勝手にご縁を感じています。
松原さんが書き下ろした戯曲はいっけんとりとめもないようでいて、ひとつひとつの台詞から、ぼくらが生きてきた時代の風景が浮き上がってくる、ふしぎな物語です。たくさんの矛盾と空回りを抱えながら、ひたむきに歩きつづける人間たちの神話のようにも見えます。言葉が軽んじられ、骨抜きにされる、いまの時代にこそ、生まれるべくして生まれた芝居だと思いました。
12/5の夜の回のあと、アフタートークと題して、出演者の方たちとおしゃべりすることになりました。冬の夜長、みなさんと一緒にこの芝居を目撃できること、とても楽しみにしています。たぶん、ぼくにとってはこれが今年最後のトークイベントになります。
アフタートークの回は、席が残り少ないようなので気になる方はすぐご予約を!
12月5日(木)19:00の回、終演後
アフタートーク 『メモリアル』をデザインする
上田桃子、山森大輔、矢萩多聞(画家・装丁家)
あらすじ
登場人物は、花嫁、独身者、娘、入国者、取次者、相続人の6人と、ほかたくさん。それぞれの行く末を抱えた6人が交叉点のまん中で衝突(!)します。川のように流れていた時間が中断し、人びとの足は止まり、そもそもふおんだった空気はさらにふおんになり……みんなで、なんとか、出口を見つけられるでしょうか……
「当然ながら人物たちはこうしたあらすじからは脱出します。言葉というのは便利なもので、いま、とか、ここ、で起きていることを明確に差し出すことができません。そのせいもあってか、不足が、軋轢が、格差が、対立が生じ、みんなばらばら、罵声あるいは沈黙。というのが、人物たちが身をさらす、ふつーの背景です。ふつーの背景では、必ず、どこかに不定の動きが発生し、拡散します。いま、とか、ここ、に不在なのは人権ではありません、キボーの叙情事です。」(松原俊太郎)
偶然にも高松のアートブックフェアにいらしてくださった編集者のいまいこういちさんが、演出家の今井さんにインタヴューしています。縁が縁を呼ぶ! こちらもぜひ一読を。
松原俊太郎の新作『メモリアル』を文学座の俳優・今井朋彦が演出〜「この芝居のセリフは誰と誰の間ではなく、客席にも向かっている」(SPICE e+)