中学校を辞めてインドで学び、独学でデザインをはじめ、みずから本をつくり届ける……装丁家・矢萩多聞はどのようにして本をつくる仕事についたのか。その半生をふりかえる自伝的エッセイ。

『偶然の装丁家』(晶文社/2014年)に加筆修正、この8年間の出来事のなかから、本の可能性をひろげるエピソード、3.5万字を書き下ろした完全版。

『本とはたらく』矢萩多聞
発行:河出書房新社
四六判・並製コデックス装・320頁

2022年5月27日 全国書店にて発売

もくじ

1 学校とセンセイ
先生なんか嫌いだ/学校に行きたくない/明るい不登校児/石井先生との出会い/ここからはじめよう/学ぶって、なんて楽しいことだろう/だれひとりも、とりこぼさない/学校はもうやめた

2 インドで暮らす
はじめての外国/インドの旅で見たこと/留学するまえに生活しよう/ 町がぼくの先生/町の地図をつくる/手紙魔の手帳/暮らすことがヨーガ/インド映画にはまる/ずっと雨を待っていた/空と雲を見て一日が終わる/生きられるところまで生きよう/引っ越し/その場にアジャストする/語りの家と子どもたち/ヒンドゥー教徒になる

3 絵を描くこと
絵を描く人になりたい/美術はいつも1だった/ミティラー画との出会い/個展をやってみよう/お客さんはきませんよ/描けないときは、描かない/時計と絵のコラボレーション/自分で絵を売っていく/伝えたいものはなにもない

4 本をつくる
はじめての本/本嫌いの本づくり/安原顯さんとの仕事/中島岳志さんとの仕事/本づくりの掌であれ/紙と印刷/目に見えない本を売っている/竹内敏晴さんとの仕事/ワークショップと多聞新聞/一杯の水を差しだすように/身の丈にあった本づくり

5 日本で暮らす
家で仕事をするということ/くすみ書房のこと/なんでもない場で、コーヒーを飲もう/インターネット/娘の誕生と3・11/汚れない本と汚れている本/よそ者を楽しむ/東京という軸をずらす/みんなが暮らしていけるために/子どもと「想像」

6 本とはたらく
かたつむりと三輪舎/ちいさくつくり、ちいさく届ける/縁側に本を、本を縁側に/ずっとラジオをやりたかった/ちとらやの実験/ここで一緒に本をつくろう/もしも、地球に本がなかったら?/迷いながら、進むこと/だれがために本をつくる/見えるもの、見えないもの

◎1~5章は『偶然の装丁家』を加筆修正したもの。6章は全文書き下ろしです。

矢萩多聞(やはぎ・たもん)

画家・装丁家。1980年横浜生まれ。9歳から毎年インド・ネパールを旅し、中学1年で学校を辞め、ペン画を描きはじめる。95年から南インドと日本を半年ごとに往復、横浜や東京で展覧会を開催。2002年、『インド・まるごと多聞典』(春風社)の出版をきっかけにして本のデザインにかかわるようになり、これまでに600冊を超える本を手がける。2012年、京都に移住。出版レーベルAmbooksをたちあげたり、「本とこラジオ」パーソナリティをつとめたり、本とその周辺をゆかいにするべく活動している。

著書に『美しいってなんだろう?』(世界思想社)、『本の縁側』(春風社)、『たもんのインドだもん』(ミシマ社)、 共著に『タラブックス』(玄光社)、『本を贈る』(三輪舎)がある。

装画について

『本とはたらく』のジャケットカバー、表紙の装画は、漫画家の香山哲さんに書き下ろしてもらいました。ベルリンに暮らし、『ベルリンうわの空』などユニークな漫画を描かれている香山さん。

「もし、この世界のパラレルワールドで、本は存在しているんだけど、ぼくらの知っている本とはちがう形の本がつくられていて、そこでそれぞれ働いている人たち、生き物たちがいる」ような絵をお願いしました。

一見、異形の生き物たちですが、地図をつくっていたり、製本をしていたり、びみょうに本の内容にもつながるところがあります。

本を読み終わったあと、もう一度この絵をみると印象がガラリと変わるかもしれません。

造本について

『本とはたらく』は通常の単行本とはすこしちがう製本方法でつくられています。コデックス装とよばれる造本で、表紙の背部分がむき出しになっていて、紙の束や、綴じ糸が見えるようになっています。そのため、本をひらくと180度パタンとページが開きます。机やひざの上において、力をくわえることなく、ゆったりと読むこともできます。
またふだんはうかがい知ることのできない、本のつくりを見て、感じることができます。本文の内側もページによっては、ひらいた中央に綴じ糸が見える箇所があります。

使用用紙
本文:モンテシオン 四六Y69Kg(日本製紙)
ジャケット:アラベール-FS 四六Y130Kgアッシュグレー(ダイオーペーパープロダクツ)
表紙:カフェラテ 270g/m2(大和板紙)
見返し:デュオストレス ハトロン判T151Kg(大興製紙)
本扉:モフル 四六Y90Kgバニラ(王子エフテックス)

『偶然の装丁家』とは

『偶然の装丁家』は、晶文社「就職しないで生きるには21シリーズ」のひとつとして、2014年に出版された本です。
矢萩多聞はいかにして装丁家になったのか。子ども時代、インドや日本での生活、絵の製作と個展などを通して、語る一冊です。個性的でなければとか、資格を持たなければとかといったような社会の風潮の中、どうしたら自らがのびのびと生きる道を探すことができるのか、居心地のよい「生き方」「働き方」を模索した本でした。
『本とはたらく』はこの本をベースにして、新たな章を追加し、タイトルや装丁も改め、仕立て直したものです。